強く、儚いもの

投稿者: | 2017-08-19

ロンブーの番組で『オレの彼女をナンパしてくれ』みたいな企画ありましたよね?お持ち帰りされるか試すやつ。
あれまだやってんでしょうか。

高校卒業して上京、っつっても実家埼玉なもんで東上線に揺られて南下、数10分てとこですが。一人暮らしをはじめたおれは某区の映像系専門学校に通ってました。実家からも通える距離ではあんですが、当然大学に進学するもんだと思ってた両親との関係もぎくしゃくしてたしね。中学高校とずっと内気だったおれには友達と呼べる奴もいなく、地元に未練はなかったんです。とにかく家を出たかった。誰もおれを知らない場所でなんたらって、まぁよくある話。

高校ん時、部活にも入ってなかったおれの楽しみといえば、ビデオ屋や、たまに池袋まで学校サボって観に行ったいろんな映画。本数観りゃあ、退屈な毎日の何かを埋められると思ってたんだね。とりあえず映画にはそこそこ詳しくなった。映像関係の仕事に就きたいって夢らしきものもできた。でも何かが足りない。何かがいろいろ足りない。内向的で、自意識ばっか膨れあがった典型的なモテない高校生だったおれに彼女なんかいるはずもなく、当然おれは童貞でした。

専門学校に入ってまずおれは性格変える努力をしてみた。つまんねー話にも興味あるふりしたり、人の目を見て話してみたり。知ってるか?慣れない人間には難しんだこれがすごく。すぐ挫折。結局、集団作業なんかにも馴染めず、授業も思ったより退屈で、ドロップアウト寸前。もはや何をやるにも冷笑的で、どいつもこいつも才能ねーってかんじで周りを見下す、いま思うとほんと厭な奴になってた。

そんなおれに話かけてきたのが彼女だったんです。

彼女(当時はモデルの田中優子?とかいう人に似てると言われてたので仮に優子としとく)は小柄で色白で、別に特別美人てわけでもないんだけど、男ならついちょっかい出したくなるような可愛らしい雰囲気のコでした。
福岡の女子高を出て上京、少し引っ込み思案な所もあったけど、優柔不断てワケでもなく、自分の意志ははっきりと

伝える芯の強いコだったと思う。

後から聞くとクラスから浮き気味だったおれが気になってたそうです。初めは映画の話から。
優子はヴィンセント・ギャロやウォン・カーウァイ、行定勲といった、ぱっと見オサレな映画が好きだった。

当時のおれはそういった雰囲気だけの中身スカスカ映画にいいかげん食傷気味だったのと、この世間知らずなアヒル口をいじめてやりたいっていう、いささかサディスティックな欲望とで、優子が楽しそうに語るそれらの作品を片っぱしから叩きまくってました。おとなげなさすぎ。

でも優子は決して不愉快な顔は見せずに
「えーじゃあ○○くんは何が好きなの?」
「ファイトクラブとか。大傑作と思うわアレ」
「えー優子もブラピ派!」
みたいなかんじでうまい具合に(うまいか?)会話を繋げてくれてました。他愛もない会話。浅い映画話。

けどあんなに自然に女子と話せたのは生まれてはじめてだった。

優子は映画が好きだったんです。小難しい作品論やつまんないウンチクなんかじゃなく、楽しく映画の話がしたかったんです。それ系の専門学校ではあっても、意外と他の奴らって映画の話、しないんだよね。もちろん話を合わせることはできるけど、それほど熱心じゃない。それよりは飲み会の予定や恋愛話のほうが盛り上がる。

まぁ入学して間もないし、しばらくは新しい出会いの溢れてる時期でもあるしね。18、19のガキにとってはしょうがないとも思うけど、優子はちょっと拍子抜けしてたみたい。

「ねえ、付き合おーよ、あたしたち」
告白してきたのは優子のほうでした。一緒にいる時間が長くなり、ボケ(優子)とツッコミ(おれ)みたいな関係は相変わらずとはいえ、お互い好感を持ってんのはなんとなく分かってたし、そうなんのは自然な気もした。

でもいざ口に出して言われると、正直ビビってたじろいだ。そんな経験ねえし。そもそも見た目の釣り合いが取れてない気がする。激しく、する。

髪こそ近所の美容院でカットしてましたが、おれの全体から漂うオーラは明らかに不審者のそれ。引っ越した当日にさっそく職質されたりしてます。無理まじ無理。でも優子曰く、

《高校の時に付き合っとったんよ地元の大学生と。かっこよかったけど女グセ悪くてさんざん浮気されたっち。腹たつ。すぐ別れた。もともと見た目にはあんまこだわんないし、それに○○くんは浅野忠信に似てるしあたしアサチュー好きなんよ》

は?浅野忠信?はじめて言われたし似てねえし。でも優子はさりげなくコクってるように見えて耳赤いし、からかわれてるワケでもないのかなと思ったおれは「いいよ、おれでよけりゃ」
さりげなく答えたつもり。でも耳が熱くなんのがわかった。
「2人して耳赤くしておれら何やってんだ」と言いました。

優子も「何やってんだ」と笑いました。

それからの日々は、そりゃ楽しいものでした。映画が共通の趣味ってのはいいね。学校終わってから単館回ったり、お互いの部屋でビデオ観たり。話題に困ることもない。すぐに学校でもおれと優子の関係は周知の事実となり「やるねー」と冷やかされたりもしたけど、照れくさい反面、どこか誇らしい気がしていたのもたしか。
あいかわらず授業は退屈だったけど、学校に居場所がないと感じることはもうなかった。
はじめての時には「したことないから自信ない。たぶん自分のことで精一杯」と正直に言った。
したら「あたしも○○くんとしたことないんやけ、緊張しとるん一緒っちゃ」と励ましてくれた。
ちょっと情けない気持ちになったけど、あちこち触ってたら興奮してきた。

優子はおれの舐めようと「んーっ」て下にもぐろうとしたけど「ま、また今度んときでいい」と引っ張り上げたら「ううー」と不服そうだった。でも優子のアソコはもうかなり濡れてたんで入れたら気持ちくて5分ともちませんでした。事後「なんかね、愛のようなものをかんじたっちねー」と嬉しそうに言ってたのを覚えてる。

それからは会うたんびにやってた。映画の好みはいまいちズレてても、エッチの相性は良いらしく、おれがコツをつかんでくると優子は1回のエッチで2~3度はイクようになった。ゆっくり奥まで突くのがいいみたい。対面座位で下から突き上げると背中を弓なりに反らしてプルプル震えながらイッてしまうのがたまらなく可愛かった。あえぎ声は控え目で「んっ…あっんっ」といった地味なものだったけど、その押し殺した声が逆にAVとは違うリアリティみたいなものをかんじさせ、なんだか嬉しかった。
幸せでした。ほんと幸せでした。クソみたいな恋愛映画ですら、愛おしく思えてしまうほど。
優子となにげなくロンブーの番組見てたんです。仕込みまるだしの、くだらねー例のやつ。
深く考えずに「優子ついてく?」て聞いてみた。
「ありえんち!」即答。
「すげータイプでも?」
「ないよ!」
「ぜったい?」
「ナンパされても彼氏おるっちゆうし。それでもしつこい奴っちすかん!」すごい剣幕。

どうやら優子は元彼に浮気されたことがよっぽど許せなかったらしく、恋人が傷つくようなことは絶対するまいという強い思いがあったみたい。おれは安心しました。こりゃおれも浮気なんてできねぇな、なんてのんきに思ってました。

いま思うとバカみたいです。

誰かにナンパさせて試してみようか、なんて余裕ブッこいて考えてました。
いま思うとバカみたいです。優子が他の男に口説かれてオチる姿なんて想像もできませんでした。
ヤリチン野郎に突かれてイキまくる姿なんて想像もできませんでした。
それを まのあたりに するまでは。
バイトはじめたんです。短期のバイトはそれまでもちょくちょく入れてたんですが、秋口ぐらいから本格的に。
新宿の洋風居酒屋。このおれが接客ですよ。世も末だね。他のバイト連中は、人間が軽いというか、安いというか、そんな、おれの嫌いな人種。騒々しいノリは苦手だったし、協調性のなさも災いしてか、職場でもおれは少し孤立気味だった。けど馴染む努力はしたよ。優子のことを思うと多少のことは、自分を殺して頑張れた。

クリスマスも近かったしね。女の子とはじめて過ごすクリスマス。そりゃ気合いも入んなきゃウソでしょ。

「○○くんはカノジョいんの?」
そう話しかけてきたのが北島(北島康介似ってことで)だった。北島は大学3年で、荻窪にある親の持ちマンションで1人暮らしをしてた。女グセが悪いって噂は聞いてた(つか自分でも豪語してた)し、まぁおれなんかとは違う世界の住人?せいぜい享楽的に楽しんで女に刺し殺されてくださいよってかんじで、それまであんま親しく話したことはなかった。
「いますよ」
って答えたら北島は少し意外そうな顔をしてた。んで
「うっそ、学生?」「誰似?」「プリクラ見して」
食いつきすぎだろ。あげくの果てには
「友達紹介してって言っといてよ」
「いや紹介て。みんな彼氏いると思いますよ」
流そうとするおれ。
「んなん関係ねえべ」なんかムカついた。
「女ってみんながみんなそんな軽いワケじゃないすよ」
てめえの周りの激安女を基準にすんなっつの。
「可愛いコほどやれんだよ」
北島はそう言った。半笑いの顔。見下されたような気がした。
「可愛いと思います?」
写真を見せた。夏前からバイトをはじめた優子が履歴書用に撮った証明写真。

4枚の内の余った1枚。おすまし顔の優子。「肌身はなさず持っとるように」と笑顔でくれた、おれの宝物。

「鈴木あみぽくね?ちと地味か」
半笑いの顔は変わらない。いま思うと北島の態度は明らかに挑発的だった。
よっぽど自分に自信があったのか、それともおれが目障りだったのか。
「これならいけんべ」
バカにされた気がした。悔しかった。何よりも、優子を愚弄された気がした。
賭けの内容は以下のとおり。
・掛け金は今月のバイト代全額。
・北島に優子をナンパさせる。おれは妨害してはいけない。
・その際のアルコール使用は可。薬物は不可。強姦など論外。
・口説き落とすのは無理と判断したら潔く諦める。
・おれが優子のケータイを鳴らすのは、いかなる時でも可。その際、賭けが優子に感づかれるような
 発言をした場合はおれの負け。
・仮にお持ち帰りが成功してもラブホは不可。連れ込むのはあくまで北島の部屋。
・おれは北島の部屋で待つ。クローゼットに隠れて待つ。耐えられなくなり飛び出した時点でおれの負け。

・結果がどうあれ、お互いを恨まない。

「信頼してる相手をテストしたりしなくね?普通」
笑いながら北島がそう言ったのを覚えている。

おれは2人の絆を、誰に証明したかったのだろうか。

北島は、どうせだからテレビみたくデートをドタキャンされたとこに声かけたい、と言った。どうぞどうぞ。
その日、2人で観る予定だった映画は『アメリ』。渋谷シネマライズ。11月下旬、街には輝くイルミネーション。

先に映画館の前に現れたのは北島だった。服装はいつもより地味目。人待ち顔で立っている。やがて優子が来た。

辺りを見回し、おれがまだ来ていないのを知ると、北島から少し離れた場所で壁のポスターを眺めていた。
物陰からその横顔を見て、胸が痛んだ。何をしようとしてるんだおれは。浮かんだ後悔を振り払い、キャンセルの電話をかける。優子が出るとほぼ同時に、北島のケータイも鳴った。
「優子?ごめん、いまどこ?」
「もう映画館の前だよー」
「あのさ、バイトが2人風邪でさ、代わりにおれ、出なきゃなんねんだわ」
「えー、アメリどうするん。もうはじまるんよ」
「わりー、今日まじ無理ぽい」
「あーん、もー!あたし楽しみにしとったんよ!」
「ごめん。バイト終わったら電話する」
電話を切った後、怒った顔でポスターを睨む優子。ややあって北島も電話を切り、優子の隣に立ちポスターを眺める。
どんな会話があったんだろう?「彼女にデート、キャンセルされちゃって。よかったら一緒に観ませんか?せっかくここまで来たんだし」おそらくそんなとこだろう。険しい目で北島を睨む優子。北島は時計を指さし何かを言う。

「もうはじまっちゃう」?。もう一度、ポスターに目を戻す優子の手を北島が掴み、2人は映画館の中に消えた。

…まぁ映画ぐらいはアリだろ。状況が状況だし。普段はヘラヘラ笑ってる北島が終始真顔だったのが気になったけど、そん時のおれはまだ余裕で、映画が終わるまで、クリスマスのプレゼントは何が良いか?なんてことに頭を巡らせていた。ツモリチサトのコートが欲しいとか言ってたけどなぁ…いくらぐらいすんだろ?みたいな。その後、ちょっと街をブラブラして、映画が終わる頃に元いた場所に戻り2人が出てくるのを待った。
出てきた2人は手こそ繋いでなかったものの、映画館に入る前よりはだいぶ親しげに見えた。
しかしその後はスペイン坂を通り駅へ。ほらみろ帰んじゃねえか。ざまぁねえな北島よ。ところが駅前の雑踏で2人はなかなか別れようとしない。映画のパンフ見ながら、何やら話し込んでいる。

やがて、お互い時計に目を落とし、2人は来た道を戻り、センター街にある居酒屋へと入っていった。

…優子、そりゃ違うだろ?混乱したおれは、しかし後を追って店の中に入るワケにもいかず、外でジリジリと時間を過ごした。30分、1時間、たまらず優子に電話。
「ごめんな、さっき。もう家?」
「まだしぶやー。アメリみたっち。すっごいよかった」
「なんだ。じゃあ今から帰るん?」
「ごはんたべて帰るけ、後でメールするー」 プツッ
『いま1人?』肝心なことが訊けなかった。かなり飲んでんのか、テンション高いし。優子はさほど酒に強いワケじゃない。前後不覚になるほどは飲まないが、酔うと気が大きくなるところがある。まさか居酒屋についてくような展開になるとは思ってなかったおれは、そこで激しく不安になった。90分、2時間、そこで北島から電話。
「もうちょいしたらタクシーで帰るわ」
「…けっこう飲んでんすか?」
「ぼちぼちだよ。真面目だな優子ちゃん。まぁ五分五分かな?」足が震えた。

「小倉弁?可愛いなアレ」そう言って電話は切れた。

電車じゃ間に合わない。タクシーを捕まえる。荻窪の、環八沿いのマンション。渡されてた合い鍵で中へ。
小綺麗にされた部屋。洒落た間接照明。寝室。セミダブルのベッド。ひきつる顔。
部屋の電気を消し、クローゼットの中へ。震える指で優子にメール。【今日はほんとごめんな】。返信はない。
破裂しそうな心臓。誰か助けてくれ。優子の笑顔を思いだす。過去を思い返す。こんなおれに、優しく笑いかけてくれた。人に心を開く喜びを教えてくれた。未来を思い浮かべる。いつものように、映画館前での待ち合わせ。
ツモリチサトのコートを着た優子。変わらぬ笑顔。大丈夫。大丈夫。大丈夫。
突然の着信、北島。
「おまえの負けかな。どうする?喰われちゃいますよ?」粘着質な笑い声。
答えず、電源ごと、押し潰すように切る。
どれぐらいの時間が経ったのだろう。玄関のドアが開く音。
「とりあえず水飲む?」北島の声。
「のむー」優子の声。

目の前が暗くなった。

「あーほんとだー。DVDいっぱいあるー」
「テレビは寝室なんだよね。入りづらいっしょ。貸してあげるから自分んちで観なよ」いつになく紳士的な北島。
優子はその、被った羊の皮に気づかない。
「うーん…そうやね。あ、これ観たかったんよー」
「あー、おれそれまだ観てないかも。でも、いいよ」
「借りていいと?」

「うん。それともいまから一緒に観ちゃう?」

沈黙―――。その時、優子は迷っていたのだろうか?おれの顔が一瞬でも、脳裏をよぎっていたのだろうか?

寝室のドアが開いた。
セッティングされたDVD。画面は見えなかったが音楽でわかった。押井守の『攻殻機動隊』。

ベッドの縁にもたれかかり、しばらく見入る2人。そして、北島が優子の肩に手を伸ばす―――――

「あたし彼氏おるんよ」か細い優子の声。
「おれだって彼女いるよ。…でも、今日だけは何もかも忘れたい」
は?何を忘れんだよ?おい、北島てめえ!奥歯を噛みしめる。口の中に広がる血の味。飛びかかって殴りたかった。

殴り殺したかった。ほんとに。ほんとに。なのに体が動かなかった。

それからおれがみたもの。クローゼットの隙間から、おれが、焼けた刃で、両目をえぐるようにみたもの。

心理描写は勘弁してくれ。実は、そんときのおれの心ん中が、いまでもよく思い出せないんだ。

後ろから優子に抱きついた北島は、うなじから耳元の辺りに顔をうずめてしばらく動かなかった。いま考えると、おれの反応をうかがってたんだと思う。しばらくすると、その体勢のまま優子の顔を自分のほうに向けキスをした。
優子の動きは、最初こそぎこちなかったものの、舌を吸われると自制がきかなくなったらしく、北島の動きに激しく答えていた。

「あたし酔っとるんよ」「おれも酔ってる。今夜のことは2人だけの秘密な」

ベッドに倒れ込む2人。ニットのセーターがまくり上げられ、優子の、小ぶりだけど形の良い胸が露わになった。
鷲掴みにし、ピンクの乳首を舌で転がす北島。「んっ…あっ」優子の口から吐息がもれる。そのままヘソに向かって舌を這わせ、スカートと下着を一気に引き下ろす。「あっ、そこはやめっ、いけんて…んんっ」北島は無視し、半ば強引に舌と指を使って、優子のアソコを責め立てた。指の動きが早くなる。
「あっやだ、なんか出ちゃう、やっ」
クチュクチュと大量の潮を吹き散らし、エビ反りになると優子はピクッピクッとあっけなくイッてしまった。
「しゃぶって」仁王立ちになった北島は腰を突き出した。放心したような顔でボクサーブリーフに手をかける優子。
現れた北島のソレは既にはちきれんばかりに勃起していた。長さはおれのと同じぐらい。でも北島のはカリの部分がゴツく、黒光りしていて、全体的に暴力的な猛々しさを感じさせた。優子は、そのアヒル口いっぱいにソレを含むと、ゆっくりと首を前後させる。
「彼氏にしてるようにやって」
そう言われた優子は、目を固く閉じ、何かを吹っ切るように激しく頭を振りはじめた。
「舌先でチロチロって、…そう、あー、すっげきもちいい」

にやけた顔でそう言った北島は、優子の口からソレを引き抜くと、半開きになったその口に濃厚なキスをした。

「優子ちゃん普段、上に乗ったりする?」「…うん」
北島は満足そうに頷くと、優子を抱えて自分の上に跨らせ、その濡れぼそったアソコに下からアレをあてがった。
「ゆっくり腰おろして」
優子は少しづつ、何かを確かめるように、自分の中へ北島のソレを埋め込んでいった。完全に収まると、軽く息をつき肩を震わせた。
「好きなように動いて」

北島に言われると優子は小さく円を描くように腰を回しだした。

「いけん、どうしよう、きもちいいよ」
そう漏らすと腰の動きは徐々に大きくなってゆく。それにあわせるように、
北島も下から腰を突き上げはじめる。
「あっ、あっ、んっ、やだ、きもちいいよ」
泣き出しそうな優子の声。
北島は猛然とペースをあげた。
「あっ!やだ、んっ、ちょっ、まって!やだっ!ねえ、おねがい!やっ!」

優子の懇願を無視し、ものすごいスピードで北島は下から突きまくる。優子の腰が浮き上がる。

「あっ!だめ、やだっ!すごい、あんっ、イク!イッちゃうよ!やだっ、ああっ!」
全身を朱に染めて、限界まで背中を反り返らせた優子はガクガクと体を痙攣させた。そして、そのままぐったりと後ろに倒れ込む。
北島はすぐさま体勢を起こすと、優子の体をくの字に折り曲げ、更に腰を激しく打ちつける。
「いゃぁあん!おかしくなっ!やっ!あんっ!あっ!イク!イク!イッちゃう!」

悲鳴のようなあえぎ声。

「すっげエロいのな、おまえ」
嬉しそうに笑う北島。伸びきった優子の足を横に倒し、腰を抱えるように持ち上げる。
バックの体勢になると、再び勢いよく腰を振りはじめた。
「やあぁん!あん!あんっ!こ、こわれ、あっ!はんっ!」
狂ったような早さのピストン運動。優子のヒザが浮き、手はシーツを握りしめる。
「彼氏とどっちがいいよ?おら!なあ?」
優子はよだれを流しながら口をパクパクさせた。
「あぁ?聞こえねえよ、おら!」
「こっちのほうがいいっ!もう、あっ!あたし、へんに、やっ!またイッちゃうっ!ああぁっ!」
『なんかねー、愛のようなものをかんじたっちねー』
はじめての夜の、優子の言葉がよみがえる。心の砕ける音が聞こえた気がした。


おれはクローゼットを出た。なにも言わず玄関に向かう。「えっ?何?えっ?」優子の声。そこで北島を殴るなり、かっちょいい捨てゼリフを吐くなり(「邪魔したな。気にせず続きを楽しんでくれ」とか)していれば、その後の展開も変わっていたのかもしれない。でもそん時のおれはなんつうか、ひどく疲れていて、全身の関節がつららのようで痛くて、早く家に帰りたかった。

マンションを出て駅に向かったら、もう終電はとっくに出た後で、仕方ないから野方まで歩いた。途中、携帯の電源を入れたら優子からの、おそらく時間的に荻窪へ向かうタクシーの中から送ったんであろうメールが入ってた。【怒っとらんよ。でもやっぱり○○くんとアメリ観たかったよ。すごーくよかった。今年のベストワンやないやろか。パンフ買ったけ明日学校で見したげる】

携帯はヘシ折って、自販機横の空き缶入れに捨てた。

声をあげて、泣いた。

おわり

後日談

その後のおれは、しばらく外に出る気にもなれず、ときたまビデオ屋やコンビニに行くぐらいで、後は12月に入るまでの数日間、ずっと部屋にこもっていた。心のどっかの大切な部分が壊れてたみたいで、感情がうまく機能せず、何をやるにもおっくうで、借りたビデオを観ずに返却することもあった。そんなんいまだかつてなかったこと。

携帯は破壊してたし、その間に優子や北島からなんらかの言い訳やら抗議やら報告みたいなものがあったのかもしれないけど、わからない。優子はアパートの住所知ってたけど、手紙なり、訪ねてくるなりということもなかった。

久しぶりに学校へ行った。優子の姿は見えない。クラスの女子数人が寄ってくる。
「○○くんさ、優子に何したの?」
「…」
「ずっと泣いてんだけど優子。ひどくない?」
「…」

「何があったんか知らないけどさ、話ぐらいしてあげなよ!場合によってはうちら許さないからね」

『場合によっては』ってどんな場合?たしかにおれは許されないことをした。種を蒔いたのはおれだし、そっから育ったものが何であれ、原因はすべておれにある。そんなん頭ではわかってるんです。
でも心がついていかない。とにかくそん時のおれは、女子というか、女の声が耳障りでずっとシカトしてた。
何それ友情?はいはいわかったからマンコ持ってる人間は気持ち悪ぃからすっこんでろ。みたいな。
午後になると優子が教室に入ってきた。一直線におれの元へ。なんかすげえ気合入ってる。
「わたしも悪い!けど○○くんも悪いんよ!」
ごもっとも。頭ではわかっている。
逆ギレかよ。なのに心がついていかない。
「○○くんが先に謝ってくれんとあたし謝れないから!早く謝って!」
「…」
「謝りっち!早く!」
「…」優子の目が見れない。
「…ねぇ、おねがいだから謝ってっち…」そこで優子は泣き出した。
「…ひっぱたいて追いかけたんよ…。駅とかどこかわからんけ、ずっと歩いて探したんやけね…」
おれはたまんなくなって、優子に背を向け教室を出た。
なんでおれはそん時『ごめん』の一言が言えなかったんだろう。
そもそもどうしてあんな賭けをしたんだろう。
どうしてそれを見ながら動けなかったんだろう。
それらしい答えも見つかる気はしたけど考えるのが面倒になってやめた。
バイト先には電話をし、無断欠勤を詫びるとともに、体を壊したので(ほんとは心だけど)辞めたい旨を伝えた。
もし先月分の給料をもらえるのならば北島さんに渡しておいてほしいと言った。そばに北島がいたらしく、なにか電話の向こうで会話があり、
「おう。じゃあ受け取っとくわ」受話器から北島の声。
「あぁ、どうぞ」気まずい沈黙。
「ビンタされたんですか?」そのまま切るのもなんなんで訊いてみた。
「ビンタ?なんでよ?朝まで一緒にいたよ」

受話器を置いた。

たぶん嘘をついているのは北島のほうだと思う。
この期に及んでも優子を信じたいとかそんなんじゃなく、なんとなくそう思いたい。

いいだろ?それで。

それから現在に至るまで優子と話したことはない。学校ですれ違っても目を合わせることができなかった。
周りも、ただのケンカ別れとは思えない、ただならぬ雰囲気を察してか、そのことに触れてくる奴はいなかった。

優子には友達も多く、徐々にかつての明るさを取り戻していったみたい。おれはおれで親しく話せる男友達もでき、いまだ目を見て人と話すのは苦手だったけど、そいつらも同じく苦手だったようで、割と気楽な付き合いができた。

そんなこんなで月日は流れ、時間は、おれと優子の間の溝を埋めてはくれなかったど、
離れた距離が自然に思えるぐらいにはお互いの傷を癒してくれた。
おれの知る限り、卒業するまで優子は新しい彼氏は作らなかったようです。

おれ?言うまでもないだろ。

今年、押井守の『イノセンス』が公開された時の紹介番組で『攻殻機動隊』の映像が使われているのを見た。
胸が苦しくなった。

吹っ切ったつもりでも、ふとした拍子に、たまらない胸の痛みを覚えることがいまでもある。

アメリはまだ観ていない。これからも観ることはないと思う。